第59話 砂漠の悪霊

サウジアラビア戦争が終わり、外人部隊は本拠地のあるフランスのマルセイユに戻っていた。検査入院しているマツイの元をシュンスケが見舞った。外人部隊に所属する日本人はそんなに多くないので互いの結束は固かった。

「オレはもはや人間ではない。人を食って生きる屍鬼だ」突然マツイがシュンスケに言った。確かに最近、マルセイユでは行方不明者が増えている。
「どういうことだ?」シュンスケが尋ねた。
「オレは両腕を失い、胸をヘリの金属部品に貫かれ、死んだ。しかし、死の次の瞬間、オレに砂漠の悪霊が取り付いた。オレは自ら胸の金属部品を引き抜いた。そして、傍らの戦友の死体を食った。オレは両腕を手に入れた。翌日から耳がとがり、牙と鋭い鉤爪が生えた。人間に変身する能力を手に入れるためにオレは戦友の肉を食った。オレは外見だけ人間になった」マツイが言った。
「信じられない……戦場で精神を患ったんじゃないのか?サイコセラピストにかかったほうがいい」シュンスケが言った。

「今でも死体を食べなければいつ変身できなくなるかわからない。だからオレは毎晩マルセイユの市民を殺して食っている」マツイが言った。
「じゃあ、オレの前で変身してみろ」シュンスケが言った。
「わかったよ」マツイはそう言うと屍鬼に変身した。その耳は獣のように尖り、目は赤く輝き、口には鋭い牙が生え、両手の指には鋭い鉤爪が生えていた。シュンスケはマツイの元から飛びのいた。

「またもとの人間の姿に戻るには、また誰かを食べなければならないんだ。シュンスケ、すまない」マツイはそう言うと鉤爪をシュンスケの肩に打ち込もうとした。シュンスケはとっさに普段から所持していたサバイバルナイフを抜き、マツイを刺した。マツイは屍鬼の姿で気絶した。シュンスケはとどめを刺し、マツイを殺した。シュンスケは逃げるようにして病院から立ち去った。シュンスケが基地に帰ると、即刻士官団の査問会に呼び出された。マツイ軍曹殺害の容疑だった。

シュンスケはありのままを語った。しかし、マツイ軍曹の遺体は人間のものであり、シュンスケの証言は自己正当化のための妄想だと切って捨てられた。(つづく)

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